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2011,08,31, Wednesday
昼下がりの自転車置場では中学時代からの友人、町子とかおるが退屈そうに待っていた。
「ゴメン!すっかりまたせちゃって!」 息をきらして到着した里美は今体験したできごとを二人に話そうと思ったが、 おおそ信じてはくれないだろうとのためらいから口を噤んだ。 彼女たちは、糸島農業高校の三年生、動物と土いじりが大好きで、 そろそろ卒業後の進路が気になる仲良し三人娘だった。 里美は目が大きく、好奇心旺盛で考古学部に席をおき、休日にはぶらりと平原遺跡や、 板付遺跡を訪ねたりもする。二人姉妹の姉で面倒見もよく、 クラスでは美化委員を任されていた。 町子は、一見、真面目で冷たい印象をうけるが、長身に長い黒髪の美人。 どちらかと言えば無口だが時には大胆な発言をし、回りを慌てさせることもある。 そんな町子と対称的なのが、かおる。 背が低く、丸顔でショートカットがよく似合う。 決して悪気はないのだが、思ったことは、口に出して言わないと気がすまない性分。 三人三様だが妙に木があって、いつも一緒に行動していた。 里美がゆっくり自転車のペダルに足を掛けると二人もそれに続いて校舎をあとにした。 つづき
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2011,08,19, Friday
夏休みを明日にひかえ、
里美は考古学教室の整理に余念がなかった。 ふっと頭をもち上げると、里美の視線をくぎづけにするものがあった。 部屋の隅に無造作に積まれた古びた書物の辺りから 怪しげな光が放たれている。 あきらかに里美に何かの信号を送っているようでもある。 何だろうと、里美はその光に誘われるように歩み寄って行くと、 そこには古びた木製の小さな箱があり、 その蓋から光がもれていた。 次第に高まる心臓の鼓動を押さえながら、恐る恐る手をのばし、 そっと覗き込むようにして小箱の蓋を開ける。 たちまち辺りは、目にくらむほどの光に包まれ、 そこだけが別の空間を創り出した。 里美は魂が吸い込まれそうな興奮におののき、 慌てて木箱の蓋を閉じた。 里美は今、自分の中に飛び込んできた映像を冷静に整理してみた。 異様な光を放っている物は、子供の握りこぶしほどの丸い玉で、 赤いビロードの柔らかなクッションに守られていた。 それが、まぎれもない水晶の玉であることに、気付くまで、 そう時間はかからなかった。 あたかもその存在を誇示しているかのような、その不思議な光は 里美に何かを語りかけているような気がしてならないが、 はっと我にかえった里美は友人との約束を思い出した。 小箱を元の位置に戻し、 心を残しながらも部屋を後にした。 つづき
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2011,07,29, Friday
やれやれ、これでなんとかうまくいった。
日頃の占いもこれくらいうまくいくと苦労はないものを、 と六五歳を過ぎたアバジは占いや呪術(シャーマニズム)が、 時には精彩を欠いていることを自覚してきている。 今、アバジの目には、金色の大地に浮かぶ玉のような輝きが映し出されていた。 『分かるのだ。何かが始まる、いやもうすでに動き出している』。 翌朝、アバジは女王様の部屋を訪れた。 「おはようございます。 ナスカ様。ごきげんはいかがですか」 「おはよう、アバジ」 母親の隣に眠る二人は、気高く輝いて見えた。 「アバジ、あなたは巫女だからわかっていると思うけれど、 私のナミコとヒミカは双子です。神はどうおっしゃっておられるの」 感情をできるだけ抑えて、ナスカはアバジに尋ねた。 ナスカの目は赤くはれている。 アバジはできるだけ優しく、ことの次第を説明した。 話を聞き終えたナスカは、今夜行なわれることを聞いて大きなため息をついた。 夜が来た。 アバジはナスカから手渡された妹ヒミカをしっかりと抱きかかえていた。 「必ず立派になって帰って来るのよ。 ずっと、ずっと、神にお祈りして母は待っています」 アバジは赤子を引きとると素早く外に出た。 夜の闇の中で赤ん坊は白くふっくらと大きく見える。 アバジがそう思うのは、無理もなかった。 実は、せめて体の弱い子は母親の手元で育て、 元気な姉は、他国でも立派に生きていけるだろうという母親の思いが誰も知ることなく、 姉のナミコが妹のヒミカとして渡され、妹のヒミカが姉のナミコとして育てられていく。 「出会い編」に ・・・ つづく
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2011,07,14, Thursday
「明後日の朝、後漢の船が出る。
その積荷に隠れて、子供とともに後漢に渡るのじゃ。 船が陸を離れたら早速、使いのリュウコウ殿に会うがいい。 すべて手はずはついている」 「ええっ!後漢へ」 二人は口をそろえて言った。 後漢の国と言われて、ヤマタもスガルも気が遠くなってしまったのだ。 「私の父や母は?兄弟は?すべてを捨てて行けとおっしゃるのですか」 夫のヤマタが言った。 「そうじゃ。神の言葉に国王もずい分辛い決心をなされた。 しかもお前たち夫婦の子だという・・・。 国王はお前たちに、出来る限りの用意をなされている。 お前たちの子は、国王のお子様でもあるのじゃからな」 アバジは決断を迫った。 「私は行きます。この子のために。 それで国王様も喜ばれることなら、こんな嬉しいことはありません」 スガルの言葉で、ヤマタの心も決まった。 「アバジ様、よろしくお願いいたします」 三人は固く手をとりあった。アバジは嬉しかった。 「いいか、この話は誰にもしてはならぬ。 神のお告げじゃからな。守れよ。そして明日の夜に子供は連れて来る」 とアバジは言い残して、家を後にした。 つづき・・・
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2011,07,06, Wednesday
「これは、これは、巫女のアバジ様では。
ど、どうなさったのです」 「い、いや。そなたたちの嘆きは、わしの嘆きじゃ。 親があまりにも嘆くのでなぐさめてやってくれと、 子の魂に連れられて伝えに来たまでじゃ」 この時代巫女の言葉は絶対的なものだった。 ヤマタと母親のスガルは、すっかり肝をつぶしてしまい、 平身低頭してその神がかった声を聞いた。 「お前たちの子供は女子か?」 「はい。生まれてま二十二日目でございました」 「そうじゃろう。で、その子はこう言っておった。 『私は一度死にましたが、両親があまりに嘆くので、 太陽の神に許しを乞い、もう一度だけ生まれ変わります。 私の魂は他の子の身体に宿る』と」 「アバジ様、本当でございますか。私たちの子が生まれ変わると」 スガルの目は必死にアバジを見つめている。 「そうじゃ。明日の夜、わしが連れて来る。心してよく聞けよ。 実は、女王様に子供が生まれた。それが双子なのじゃ」 「ええ!」 「その双子の一人に宿ったのだとお告げがあった」 「じゃあ、どうされるのですか。双子では・・・。 女王様は?私たちの子は?」 「そうなのじゃ。お告げがあった以上、子供の命は神聖じゃ。 だが、この国の掟を破るわけにもいかん」 アバジの言葉にとうとうスガルは泣き崩れてしまった。 当のアバジは、ことのなりゆきとはいえ、 ついでてしまったうそが現実味を帯びてくるのに驚いた。 しかし『これも人助け、神もお許しになろう』と腹をくくったのである。 つづき
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